第七回『国分寺寄席』 実行委員長後記

第七回『国分寺寄席』 実行委員長後記

 朝から台風15号の余波が雨を降らせて、今回の国分寺寄席への客の出足を心配しながら家を出た。会場準備の役員全員がロビーに集合した11時には雨も上がり、少し風もあって気温も23度と凌ぎ易くなりひとまず安心して準備に入った。
 12時には7,8人のお客が、早々と並び始め「開場は13時からです」と断わりを言っている間にも10人、15人と次第に列は伸びていった。急遽会場係の機転により12時半過ぎ、ロビーに入って座って待機してもらった。
開場は13時、会場係の誘導のもと、受付係もスムーズに手順通り運んだ。愈々開演、まずは国分寺稲門会清水元会長が、御来場の皆様へ毎回の満員御礼と国分寺稲門会のモットーである『地域と共に』が実践されている証であると挨拶。
 まずは開口一番、前座の小駒が『鮑のし』大阪落語では「祝のし」で演じられる。女房の知恵で、間の抜けた亭主が大家の婚礼の祝いと称して魚をもって行き貰ったお返しでコメを買おうという目論見。魚は高いので鮑を買う。大家は、磯の鮑の片思いだから縁起が悪いと受け取らない。のし鮑は縁起物だと教わり、取って返して大家に説明する、という咄。教わった通りに言おうとしてもその通りに言えない、鸚鵡返しに言って笑いをとる、こうした話を「鸚鵡」という。

 二つ目馬久『近日息子』を一席、愚かな息子が、日頃父親の言う「先を読め」を心掛け、その後父親が病気になると素早く棺桶を用意して手回しよく葬式の準備。「忌中」の横に近日と書いてあるという落ち。葬式の手配が滞りなく出来る息子が単なるうつけ者とは思えない。そのあたりを感じさせない様演じなければいけない。人の教えを実践し、拡大解釈の末の失敗談が笑いを呼ぶという咄である。

 真打ち二年目の馬治『強情灸』。大阪では「やいと丁稚」という。寄席でよく演じられるもので、仕草が大事な演目で典型的な仕方咄である。当今は「灸」が解らなくなっているので、枕で解説することが必要であろう。演じるうえで色々工夫を凝らしてやると一層笑いが取れる咄ではある。今回の馬治にはそうした馬治独自の工夫も、脚色もなくさらりと逃げた感があった。

 同じく真打ち馬玉『粗忽長屋』。浅草雷門の前の行き倒れ、それを見た慌て者が自分の友達だと言い張る。今朝会ったばかりだから間違いないと。しかし行き倒れは昨晩からあるんだと言っても聞き入れず、本人を連れてくると言って駆け出す始末。のんびり屋の熊は自分の行き倒れに会いに行く、挙句行き倒れを自分だと認める。そこで一言「抱かれているのは確かに俺だが、抱いている俺は誰だろう」馬玉の歯切れのいい話しっぷりに場内に笑いが渦巻いた。  
 ここで仲入り

 仲入りの時間を使って最前よりご来場の、国分寺市市長:井澤邦夫様には壇上にお越し頂きひとこと御挨拶を頂戴した。「このように市民と一体になった催しが定着することは、市にとっても大変に喜ばしいことと存じます」この一言は大いなる激励の言葉であった。

 いよいよ『国分寺寄席』は初出演の柳家小春さんの出番。小柄でいかにも日本風のかわいい小春さんが高座に上がると、予想以上に場内は静かだった。弾き始めると耳を澄まして、小唄、端唄に聞き入り、ぼそっと言うちょっとした語りに笑いも出て段々小春さんの音曲の世界に引き込まれた様子。大津絵節の『両国橋』を唄う。夏の情景風物を早口に歌い続け、『上がった上がった上がったあ!  玉やぁ!』 場内の大きな拍手が鳴り響いて、小春さんも満足の様子で高座を降りた。

 さあ、大御所、金原亭馬生師匠の出演。登場するや大向こうから声が掛かる。高座に上がりお辞儀をするや、また「たっぷり!」「待ってましたッ!」「木挽町!」国分寺市民から大きな声で雰囲気を盛り上げて下さったことは、『国分寺寄席』が地域に密着しつつあることの証と喜ばしいことであった。
馬生師匠の演目は『笠碁』 碁の手を待ってくれ、いや待てないといった些細なことから、碁から離れて昔のことを持ち出して口論になってしまった二人。お互いに二度とお前とは碁を打たないと仲違い。時間が経つにつれ双方ともに相手が恋しくなる。世間にはこのようなことはよくある話、心理描写も見事に語っている。 喧嘩の仲直り、再び元の鞘に納まる、なんともくすぐったい人間の細やかな感情の変化がよく描かれている。江戸川柳の「柳多留」に『碁敵は憎さもにくし懐かしき』という川柳は、この落語の全体を引き締める効果がある。

 話し終わって師匠は口座を降りて馬治、馬玉の三人で茶番、曽我兄弟の大磯の段。曽我十郎と大磯の遊女の掛け合いでの茶番。この後馬生一門総出のかっぽれ踊りを客席の手拍子も賑やかに踊って、大喜利となる。 
お題に『国分寺』
を頂戴するや馬生師匠
『国分寺と掛けて、高価な気に入った着物と解く』
「そのこころは」

『またきたくなります』

 閉会の言葉を国分寺稲門会副会長野部明敬が述べて、その折馬生師匠の古稀を祝ってささやかな品を贈呈、会場の拍手を戴き大盛況の内に閉幕となった。

                       (記)実行委員長 眞宅康博

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