2025年5月国分寺句会_V2

俳句同好会(国分寺句会)5月例会(第122回)

俳句同好会(国分寺句会)の2025年5月例会が5月25日(日)13時30分から対面句会方式で開催されました。今年になって三度目の対面句会を、安西先生をはじめ9名の方が出席、15名全員の方から投句ならびに選句をいただき盛会となりました。

出席者氏名;安齋篤史(俳号 安西 篤・講師)、赤池秀夫、内田博司、梶原由紀、清水元(星人)、眞宅康博(泉舟)、野部明敬、森尾秀基(ひでかず)、吉松峰夫(舞九)以上9名

欠席投句: 押山うた子、佐竹茂市郎、舘外博(爽風)、千原一延(延居)、中村憲一、藤木ひろみ 以上6名 

投句数:3句  兼題:「花水木」(傍題を含む)

講師選評 安西 篤(俳句結社「海原 KAIGEN」主宰)

◆2024年度 国分寺句会秀句 天・地・人賞

本年度から前年各月の特選句の中から優れた作品を天、地、人の各賞として先生に選んでいただき表彰することとなりましたが、今月の対面句会で表彰式が行われました。なお、賞品として先生の直筆による短冊が授与されました。

天 賞 身に沁むや自酌に余る一人膳        清水星人(9月)

地 賞 蕗のとう珠洲千枚の割れ田かな       内田博司(2月) 

人 賞 硝子戸に映えて新樹と猫の墓          吉松舞九(5月)

*各賞の安西先生の選評は、国分寺稲門会会報№79に掲載しております。

◆天賞短冊 草原に反歌の座あり吾亦紅            篤

◆地賞短冊 網走原野放馬の秋は逸るなり         篤

◆人賞短冊 人体をかさねて八十八夜かな         篤

2025月 国分寺句会講師選評 

【特選】

リハビリの軽き亜鈴や花水木     吉松舞九

 予後のリハビリとして、鉄亜鈴を振っている。ちょうど花水木の下で、さりげない運動ながら毎日欠かさずやっているのだろう。花期の長い花水木の下でやっているうちに、予後の回復のために始めたことながら、いつの間にやら習い性となっていた。その懸命な努力の姿を、花水木が温かく見守っている。上中のラ行音の響き合いと、下五「花水木」の取り合わせが、一句全体の軽やかな韻律を生み出している。

【並選】

(一位)

花水木過ぎた時間のレクイエム    内田博司

 花水木の下で、過ぎし日のあれこれを思い返している。中でも、やはり一番強く甦るのは、懐かしい人々との別れの時に違いない。それはレクイエムとなって、いつまでも響き渡ってゆく。そんな心に残る時間の数々とともに、おのれの余生を刻んでゆくのだろう。

(二位)

余花の雨亡き友路地の向こうより   清水星人

 夏に入ってなお咲き残る櫻をみかけることがある。遅れて咲く櫻を晩春のうちは残花といい、初夏に入ってからは余花という。そんな時、路地の向こうより、亡き友の面影のようなものが、すうっと現れた。そんな幻覚に襲われるのも、老い故の妄想かも知れぬと思いながら、懐かしさを覚えている。

(三位)

母の日や母手作りのシャツを着て    森尾ひでかず

 母の日に、母手作りのシャツを着ている作者。おそらく亡き母を偲ぶ作者ならではのものだろう。母手縫いのシャツの感触を、おのれの肌に刻みつけるように感じとっているのではなかろうか。それは母の日の来るごとに、行われる慣わしともなっている。

(四位)

藤籠の旅行雑誌や夏兆す       梶原由紀

 藤の蔓で編んだ籠に入れている最新の旅行雑誌を見ているうちに、なんとなく夏が近くに来て、なにやら旅心を誘う気分になっている。夏も近づく八十八夜は、茶摘みだけではなく、旅心まで誘われてくるようだ。

(五位)

百余年異国に香り花水木       押山うた子

 明治45年、当時の東京市長尾崎行雄が、櫻の苗木をワシントン市に寄贈した返礼として、大正4年に同市より贈られたものという。その故事を踏まえた一句だろう。今はその縁を知る人も少なくなっていようが、これを知れば花水木の香りも一段と床しいものになるに違いない。

(六位)

花水木くちずさみつつケーキ手に    赤池秀夫

 花水木の歌か、或いは花水木の花びらを口に咥えながら、3時のケーキを用意しようとしているのだろう。おそらく家族か、少数の親しい友とのお茶の時間。少しばかり楽しさに浮きたつような気分が漂う。

(七位)

山桜泣くように咲く御巣鷹尾根     千原延居

 1985年8月12日、群馬県上野原村の御巣鷹山に日航ジャンボ機が墜落し、520名の死者を出すという大惨事があった。すでに40年を経た今もその命日には、遺族や関係者等が追悼に訪れている。事故は山桜の時期とは異なっても、櫻の花は追悼の思いを込めて咲いていると見たのだろう。

(八位)

読経の堂内満つる若葉風        藤木ひろみ

 おそらく夏安居の時期を詠んだのかもしれない。陰暦4月16日から7月15日までの間、僧は遊行に出ないで、一か所で修行する。夏行、夏籠、夏断ともいわれる。山中の行が多いので、読経と若葉風の一体感が、爽快に響き渡る。

(九位)

青嵐シートパイルの打設音       舘 爽風

 青嵐は、5月から7月にかけて万緑を揺るがして吹き渡る風。その風に乗って、建築用の仮設材シートパイルの打設音が鳴り響く。いかにも建設の力感に溢れた物音で、青嵐の中へ打ち込んでいくような力感がある。

(十位)

身ごもれる犬の吐息や花水木      野部明敬

 犬の出産は交配後約60日で、一回に5~10匹程度の仔犬を生む。体温は17度程度まで低下し、呼吸は苦しく、震えや嘔吐を起こすというから、花水木の咲くような落ち着ける場所で、出産を見守っているのだろう。犬の吐息に花水木が励ましているようだ。

◆講師(安西 篤)詠 3句

一つ為し二つ忘れし麦の秋      

心の臓やや騒めける花水木      

卒寿路の生きざま通す土佐水木   

2025年5月 国分寺句会高得点句 (同点の場合は番号順)

最高得点句・十一点

一つ為し二つ忘れし麦の秋            安西 篤

その他の高点句・九点

卒寿路の生きざま通す土佐水木      安西 篤

余花の雨亡き友路地の向こうより     清水星人

八点句

ケロリンの湯桶の響き昭和の日       吉松舞九

七点句

リハビリの軽き亜鈴や花水木        吉松舞九

合図待つバチカンの空新樹光      清水星人

六点句

山桜泣くように散る御巣鷹尾根      千原延居

目借り時地球の皮が破れだす        森尾ひでかず

五点句

藤籠の旅行雑誌や