今回は、第3回でご紹介した「3つのティーパーティー」について詳しくお話し致します。
お茶(緑茶)の歴史は伝説を含めると約4,800年でありますが、「紅茶」の登場については歴史的には、そんなに古い時代ではなく、せいぜい300年位です。
皆様は「ティーパーティー」と言えば英国紅茶文化から生まれたものを頭に浮かべると思います。ここでは3つの「ティーパーティー」を紹介致します。
その1.「アフタヌーンティー」などのティーパーティー
「ティーパーティー」ですが本来はイギリスにおいて、17世紀中頃から東洋の珍品・貴重品であるお茶が普及して行く過程で、有産階級においてティーとティーフーズで親密な会話を楽しむ社交・親睦のためにお茶を飲む習慣が英国の伝統的な生活文化としてライフスタイルに定着、発展したものです。一般にティーパーティーといえば「アフタヌーンティー(午後のお茶会)」を意味しますが、これはビクトリア時代の1840年頃のことです。
「アフタヌーンティー」は1840年頃に、第7代ベッドフォード侯爵夫人のアンナ・マリアが発案者といわれ、社交のための中食としての習慣です。豪華な朝食と夜遅い夕食の間、午後5時に空腹をしのぐため、お茶とバター付のパンをとったことが始まりで、これが貴婦人の間に広まったといわれています。ビクトリア王朝の1850年からエドワード7世、ジョウジ5世まで1910年までにすべての階層に定着、お茶は国民飲料になりました。まさにイギリスの栄光を誇示する英国の紅茶文化が完成した訳です。
なかでも公式のアフタヌーンティー(ビクトリアンティー)にはマナーやエチケットとは別に、少し条件があり、それは「優雅なテーブルセッティング」「多種類でたっぷりのティーフーズ」「主にインド、セイロン紅茶をミルクティーで正しくいれて楽しむ」もので、これこそイギリスの紅茶文化を象徴するものです。
現在日本でも、略式ですがホテルやレストラン、紅茶専門店などで楽しむことができます。
その2.「アメリカの独立」と「ボストンティーパーティー」
アメリカ独立戦争の導火線なったのがボストンティーパーティー(騒乱事件)です。
当時イギリス東インド会社がお茶の輸入権を独占しており、植民地であるアメリカはイギリス本国の茶の重税に対抗し、オランダから密輸するなどで対応していました。常々英本国の課税政策に対し、「英国製品ボイコット運動」など、不満をつのらせていた折に、英政府の東インド会社の持つ中国茶の過剰在庫分をアメリカ市場で特価処分してもよいとの認可が出されたことに反発し、1773年12月16日にボストン市急進派の市民が正体を見破られないように、手や顔にランプの煤やペンキをぬり、毛布を肩に巻き、モホークインディアンと間違える扮装で、ボストン港に停泊中のダートマス号・エリーナ号・ビーバー号の積み荷のお茶を海中に投げ込み、ボストン港を紅茶色に染めたと言われている騒乱事件です。そのお茶は中国産の武夷茶342箱でありました。
その後チャールストン・フィラデルフィア・ニューヨーク・アナポリスなどで同様な騒乱が起き、これがきっかけで独立運動に拡大。1774年には2回目のボストンティーパーティーが起こるなど騒乱が続き、1775年4月にボストン郊外レキシントンで英軍隊と武力衝突が勃発。独立戦争に突入し、1776年に独立を成し遂げました。
独立後、1784年には「エンブレス オブ チャイナ号」が中国から直接茶を輸入するためニューヨークを出帆。茶を満載して帰国し、アメリカ国民は歓呼してこれを迎えたとのことです。アメリカ独立戦争の導火線なったのはこのボストンティーパーティーです。
その3.アメリカのティーパーティー運動
昨年11月、アメリカでは大統領選挙が行われ、現オバマ大統領が再選されました。
共和党のロムニー前マサチューセッツ州知事は惜しくも落選。一時、共和党・保守派の強力な運動母体にティーパーティー運動があります。これは2010年のマサチューセッツ州知事の補欠選挙や中間選挙で一大旋風を巻き起こしました。
遡れば2007年12月に共和党ロン・ポー下院議員が記念集会で初めて使った言葉で、反オバマ運動として、また税金の無駄遣いを廃止し、小さな政府を目指す保守的な運動です。2010年の中間選挙では共和党の躍進に大いに寄与し、今以て保守派の政治運動として大きな力をもっており、躍進が急であります。その名から一時T.Bを手紙で送っていたので、ティーバッガーとも呼ばれたようであり、対抗して民主党のリベラル派でコーヒーパーティーを立ち上げたとのこと。まさにこのティーパーティーという呼称は、1773年のボストン茶会事件という歴史的な言葉を蘇らせたものです。
共和党の目指すところは保守の復権で、政府の役割をスリムにし、古き良き米国の自由と独立を目指すものです。この民主・共和の二大政党の対立軸は社会保障分野では国民皆保険を目指すオバマ(民主)、国の干渉は不要とのロムニー(共和)、財政再建では公共事業・景気刺激の民主、大幅な歳出削減の共和、エネルギー政策ではクリーンエネルギー重視の民主、エネルギーの自給・ガスや石油の採掘促進の共和と論点が鮮明でした。日本も暮れの総選挙では、民主、自民二大政党の争いが熱を帯びましたが、自民の独り勝ち、民主の惨敗で幕を閉じました。しかし、争点はどうも政局や顔の違いを争点にしているようで、米国のように明確な国家観を背景にした政策の争いとはほど遠いように思えました。これでは国民の期待を失い、政治不信を招き、盛り上がりを欠く政治ショーです。
さて、肝心の米国のティーパーティー運動の状況ですが、共和党指導部との対立やら、力も各地に分散し、政策の確立も弱く指導者不在など課題が多いことで、やや輝きも薄らいではいますが、今後の運動の行方が注目されています。
エピローグ. 英国式の「ティータイム」
最後にイギリス人の喫茶習慣について概要を紹介します。
これらは「日常の生活の中に習慣的に定着したティータイム」と日常生活とは別のイベントとして「特別なお茶会を楽しむティータイム」の2通りに区分できます。
前者には①ベッドティー:朝起きぬけのティー、②ブレックファストティー:朝食時のティー、③モーニングティーブレーク(イレヴンジイズ):10時~11時の休憩時のティー、④ティ・アット・ランチ:昼食時のティー⑤アフターヌーンティーブレーク:15時~16時の休憩時のティー⑥就寝前のティー:元来は正餐(ディナー)の後で応接間などで団欒と社交目的に楽しんだティーの概ね6つがあります。
後者には①アフターヌーンティー:特定な日の午後に、サロンや応接間にて親密な交際を目的とし開くもの、②ハイティー:労働者階級発信の文化として、有産階級が楽しむアフターヌーンティーにあやかって午後6時頃に子供たちとともにとった夕食のティー、③クリームティー:アフターヌーンティーほどの伝統や儀式にとらわれない「田舎風のティータイム」でティーとスコンのおやつで、イチゴジャムとクロテッドクリームで食べ、ティーを楽しむティータイムです。以上の概ね3つがあります。
(資料提供日本紅茶協会)
清水 元(前日本紅茶協会 専務理事)(記)