世界のお茶と紅茶
2019年7月19日 清水元(記)
1、世界のお茶の生産量
2017年の最新統計では総生産量は5,812千トン(内 紅茶が3,794千トン、緑茶が2,017千トン)。
紅茶:緑茶の比率は65.:35と2/3が紅茶です。毎年中国の生産が増大しているので緑茶の比率が高まりました。実は2008年の統計では緑茶が1,163千トンでしたから緑茶はこの10年で倍増近い生産量になりました。それ以前の比率は76:24で世界のお茶の3/4が紅茶でした。
因みにコーヒーの生産量は9,212千トン、ココアは4,587千トンです。
コーヒーは一杯当たり8g~10gを使用、紅茶/緑茶は2g程度(緑茶は2煎3煎もあり)の使用量から推計すれば、お茶はコーヒーの3倍以上の消費量があるかと思います。
紅茶だけで見てもコーヒーの2倍程度で、世界で一番飲まれている飲料は紅茶と言えます。
2、国別の生産量
緑茶を含むお茶合計では中国が2,609千トンで断然トップ、インド1.322千トン、以下ケニア、スリランカ、トルコ、インドネシアと続く。
上位10ヶ国で90%を占め、紅茶ではインド、ケニア、スリランカの順、緑茶では中国が断然トップで全体の88%、べトナムが2位で97千トン、日本は3位で78千トンです。
3、製法別
通常皆さんが飲んでいる日本茶サイズのスタイル(揉んだ茶葉の小さな葉っぱスタイル)がオーソドックス製法で、これが38%、ティーバッグのような細かな葉のCTC製法が62%です。
これはインドとケニアのCTC茶が多いためで、CTCは1830年にインドのアッサムからスタートした製法です。萎凋時間や生産効率や製品需要も高まるに伴い、CTCが増えています。
但し国や地域によって実情は異なり、インド、ケニア、バングラディシュ、アフリカ諸国はCTCが多く、スリランカ、中国、トルコ、ベトナム、インドネシアはオーソドックスです。
4、生産国の消費と輸出
近年生産国での消費量が増加する傾向にあり、消費量は拡大しています。
主要生産国のお茶の輸出量は、2017年では生産が5,812千万トンに対し輸出が1,791千トンと31%が輸出です。世界で一番輸出量が多いのがケニアで次が中国、スリランカ、インドと続き、大きな産業に発展しつつあります。ケニアの輸出量は416千トンで生産量439千トンの殆どを輸出に回しています。他にケニアはモンバサのオークションで周辺国から買い付け、国内需要と輸出へも充てています。スリランカは生産量の91%が輸出で、緑茶大国中国の場合は14%で、インドは23%とさすがに大きな人口を抱え、消費量は非常に多く、いずれも8割が国内消費に、2割程度を輸出に回しています。インドネシアは40%、ベトナムが80%と輸出比が高く、お茶が非常に重要な輸出品目になっています。
5.主要国の輸入状況
消費国の輸入量は2017年の統計では1位はパキスタンで175千トン、次はロシアで163千トン、アメリカ126千トン、英国108千トン、ドバイ、アフガニスタン、イラン、イラク、サウジアラビアなど中近東諸国が続きます。輸入量の多いロシア、パキスタンはこの10年大きな変動はなく、紅茶のみ国民です。
一方紅茶の先進国イギリスは、129千トンから108千トンとやや減少してます。ティー・紅茶はイギリス伝統の飲料には変わりないが、飲料の多様化で選択幅が拡大(コーヒーその他飲料)しているのが現状です。
日本は紅茶18.7千トン、ウーロン茶10.2千トン、緑茶4.7千トンの計33.6千トンを輸入しています。
6、お茶の消費量
一番お茶を飲んでいる国と一人当たりでの消費量は如何でしょうか、2015~2017年の国際統計でみると。国別での総消費量の1位は中国で1956千トン、一人当たりでは1.42kg。インドは911千トン、一人当たり0.8kg、CISは253千トン同0.89kg、トルコ250千トン同3.1kg、パキスタン167千トン同0.8kg、米国129千トン同0.4kg、英国110千トン、同1.7kgです。
一人当たりの量ではトルコ、リビア、英国、アイルランド、台湾、チリ、中国、アフガニスタン、バングラディシュ、バーレーン、イラクなどが1kg以上飲んでいます。
本格的な「英国帝国紅茶」を誕生させたイギリスは過去消費量1位でしたが、今日では他の国に譲っています。それでも一人当たりでは日本の2倍以上を飲んでいます。
日本の消費量は緑茶、紅茶、ウーロン茶の合計が104千トンで一人当たり0.8kgとなり、量で8位、一人当たりで18位となり、お茶飲み国民と言えましょう。
(以上)
世界の主な茶産地と三大銘茶
2019年7月27日 清水元(記)
今回は、世界の主な茶の産地について紹介します。
下の写真はこれから紹介する5大産地です(クリックすると拡大)。
1.インド
1823年にスコットランド出身のロバート・ブルース少佐によってアッサムの大地に野生の「アッサム種」の茶樹が発見されました。
1830年代に紅茶の生産が始まり、現在の生産量は1,321千トンと世界最大の紅茶生産国であり、同時に消費国です。
生産地域と量は大きく分けて北東インドで70%、南インドで30%になります。北東インドにはアッサム、ダージリン、ドアーズ、テライ、トリプラ、カチャール、南インドはニルギリ、ケララ、北西インドにはカングラなどの産地があります。
ダージリンは1840年代イギリスにより開発され、ウバとキーモンと並び19世紀から20世紀に出揃った世界三大銘茶の一つです。西ベンガル州、ヒマラヤ山脈カンチェンチュンガに対面する500m~2,100の高地で、茶園(エステート)数は80余で、栽培面積が2万haで、収穫量は8,000t~10,000トンです。独特のフレーバーに加え、希少価値が高いため、高値での取引がされています。
収穫期は3,4月のファーストフラッシュ、5,6月のセカンドフラッシュ、7,8月は雨期で品質は普通、目立った特徴はない、9,10月から11月初旬のオータムナルなどに分かれ、1stは水色はやや薄めのオレンジ色、青葉のような香り、2ndマスカットのような香り、Autumnalはウッデイな香りと特徴が異なります。特にセカンド フラシュは充分な気温と強い日照により、特徴的な高級品が採れます。葉はしっかりして、水色は明るく、味はやや渋味が増し、コクも出て、最良なものはマスカテルフレーバー言われるフルーティな芳香が特長で、「紅茶のシャンペン」と言われています。
ここは19世紀半ばに当初イギリス人の避暑地として開拓され、良い紅茶の栽培に適している条件である「日中と夜間の寒暖の差が大きく、高地で霧がかかって、急斜面で水はけがよいところ」に合致した将にその場所になります。世界遺産のダージリン・ヒマラヤ鉄道(トイトレイン・世界最古の登山鉄道)が走っており、この鉄道はお茶の運搬と避暑客の便宜のために施設されたものです。
アッサムは標高が50m~500mでさほど高くありません。大河ブラマプトラ河の広大な流域の488千haで栽培され、1,087千トン余の生産量です。亜熱帯のモンスーンで雨量が多く、生産に適し、生産効率も高く1haあたり2t超ということになります。ほとんどCTC製法での生産で、世界で一番お茶を生産している地域です。収穫期は4,5月ごろから10月の秋摘みまでです。外観は平均して堅く、よく締まった灰色或いは黒で、香味強く、濃厚な水色。ブレンド用など利用価値が高い。
ニルギリは南インドに位置し、標高も高く、1200mから1800mになっています。茶園は102千ha、生産量は日本の3倍の245千トンを生産しています。その生産性は非常に高いことになります。位置的にスリランカに近いこともあり、セイロン紅茶と同じようなタイプのお茶が生産されて、品質的にもスリランカと変わらなく、概してクセがなくストレート、ミルクやレモンティーにも適するお茶です。
「ニルギリ」は土地の言葉でブルーマウンテン=青い山という意味です。
2.スリランカ
日本に輸入されている紅茶の47%がスリランカ産です。嘗て60%を占めていたが、輸入先の多様化などでケニア、インドからの増加もあり50%を割り込んでいます。
日本で飲む紅茶の約半数はセイロン紅茶です。国名はスリランカですが、お茶は「セイロン紅茶」で旧国名の「セイロン」という名前を使っています。 茶産地は主に島の南の高地に集中しています。又製茶工場のある標高により3ッに分類され、1,200m以上の高地産茶(ハイ・グロウンティ)・生産量のシェアーは26%、と600m~1200mの中地産茶(ミディアムグロウンティー)で・生産量のシェアーは16%、それに600m以下の低地産茶(ローグロウンティー)で・同58%になります。
現在スリランカティーボード・政府茶業局では以上3区分の紅茶を、高地産はウバ、ヌワラエリヤ、ウダプセラワ、それにディンブラの4つ、中地産茶がキャンディー、低地産茶はルフナ、サバルガムワという7地区を代表とし、夫々の標高や気象、収穫期、土壌の違いによるお茶の品質や味、香りの特徴をPRし、これら7ディストリクトの紅茶の特徴を知ってもらい、トータルでセイロン紅茶の普及拡大策を展開しています。
産地は東側にウバ、ハプタレ、バドウラ、中央にヌワラエリヤ東南部、西側にヌワラエリヤ、ディンブラ、ディコヤ、マスケリヤ、キャンディーなど、また低地にルフナ、ゴール、サバルガムワなどがあります。
ウバは三大銘茶の一つで南東部に位置し、標高1,000m~2,000m、茶園は10エステートで、南西モンスーンの関係で昼夜の寒暖の差が大きく、霧が発生し、かわいた冷たい風が吹く、8月末から9月にかけてすばらしい紅茶が生産されます。パンジェンシーと呼ばれる好ましい渋味と強い味で、メンソール風の特徴ある風味があり、数量も少なく限定されるので、高値で取引されます。
3.ケニア
輸出量第1位で、生産のほとんどを世界へ向けて輸出しています。特にパキスタン、イギリス向け、毎年日本向けも増大しています。
ケニアの茶園は生産効率は1ha当たり2,2トンと高く、アジアの茶園とくらべ、茶畑や茶樹の密生度など変わった様相です。
ケニアには1903年に英国人のケインがナイロビ北東部のリムルに入って、そこでお茶の木を植えて茶園を起こしました。インドでは1830年代にブルース兄弟が最初にアッサム種が発見されて茶産業を起し、スリランカは1867年にジェームステーラーによりルーラコンデラの茶園を本格スタートしたのに比べ、ケニアは50年以上遅れて立ち上がりました。
ケニアでは当初英国資本により開発され、現在はKTDAという法人(小農方式・スモールホルダー)での茶園経営が大きく展開されて、ケニアの生産量439千トンのうちの60%を生産管理しています。
リプトン、ジェームス・フィンレイなどの大きい会社の大規模茶園は30%でKTDAは世界最大の紅茶生産企業になります。
現在のユニリーバのマブルーキーという茶園に、100年以上に植えたお茶の木がまだ残っているということで私も訪問した際に見させていただきました。中国の雲南にあった茶樹王のように、大木で樹高は10m近くで、見上げる高さから壮大な樹木という感じでした。ケニア茶の葉は大きく、茶園は見るからに平原状で広く、お茶の木が満遍なく生えそろって、密集しているという感じで、遠くから見ると緑の絨毯のようです。
栽培方法はCTCが99%、1年中採れるという3つの条件で、生産効率が非常に高く、1haあたり2.2t~2.3tで世界1位です。
産地は巨大渓谷「グレートリフトバレー・大地溝帯」の西地区と東地区の「ケニア山周辺」に分布され、西側はケリチョ、ナンデイ、東側はニェリ、ナクルなどです。概ね水色は明るく、濃い赤色で、幅広く、爽快な渋味とマイルドな香味をもっている。
4.中国
お茶生産量は世界最多で内、紅茶は工夫(コングウ)紅茶と呼ばれるもので、代表は祁門(キーモン)と正山小種(ラプサンスーチョン)です。
中国は2,609千トンの生産量、栽培面積3,059千haでともに世界1位。お茶の2,609千トンのうち67%の1,77千トンが緑茶で、1ha当たりの生産量は少なく、生産効率は非常に低くなっています。
紅茶の代表は三大銘茶の祁門(キーモン)で主産地は安徽省祁門県で水色は明るいオレンジ・イエローがベースで、鮮やかな鮮紅色で、やや渋味があり、最良のものは蘭の花の香り、あるいは甘い香りで、スモーキーな香味があります。
祁門の温和な気候と豊富な雨量などの自然条件に恵まれ、20世紀初頭から世界的に高く評価を得ています。
正山小種(ラプサンスーチョン)は福建省で生産され、製造工程中に松柏と呼ばれる松の木の薫煙で香づけされ、独特ないぶり香を楽しめます。
5.インドネシア
お茶も非常に古く、オランダの植民地時代からのスタートになっています。インドネシアは6割以上がジャワ島、あとスマトラなどで作られています。
その生産量は134千トン、117千haとなっております。けれども、プライベート農園の生産量もこれはスモールホルダーの生産も49千トンと大きなシェアーを占めています。
インドネシアのお茶は外観が良く、黒味を帯びているが、水色はやや濃い、渋みの少ないアッサム系のお茶の多くは輸出しています。
6,終りに
世界では豊かな食生活を過ごしている多くの人々がいる半面、最貧国では飢えの為に多くの子供が亡くなっており、しかも世界的には食糧不足が憂慮され、環境変化が作物や人体にもたらす影響は大きな不安材料になっています。
南北問題は「食の安心・安全」を超えた国際的なテーマであり、国際機関では「フェアートレード」或いは「レインフォレスト」などへの参加を通じコーヒー生産企業などと共にこれらの解決に援助・協力を推進しています。
我々が一杯の紅茶を口にするとき、茶摘みから生産に携わった人たちが注いでくれた「紅茶」への情熱を改めて理解し、茶園からティーポットまでの繋がりを想いながら味わいたいものです。
(以上)