俳句同好会(国分寺句会)6月例会(第123回)
俳句同好会(国分寺句会)の2024年6月例会が通信句会方式で開催されました。
参加者は15名の全員参加でした。
出席者氏名;安齋篤史(俳号 安西 篤・講師)、赤池秀夫、内田博司、押山うた子、
梶原由紀、佐竹茂市郎、清水 元(星人)、眞宅康博(泉舟)、舘 外博(爽風)、千原一延(延居)、中村憲一、野部明敬、藤木ひろみ、森尾秀基(ひでかず)、吉松峰夫(舞九)。
投句数:3句 兼題:「夏草」または「蛍」(いずれも傍題含む)
講師選評 安西 篤(俳句結社「海原 KAIGEN」主宰)
◆2025年6月国分寺句会選評
【特選】
夏帽子大地確かむ妻の試歩 清水星人
長い闘病の末、ようやく退院して帰宅を許された妻が、一息ついた後、夏帽子をかぶって、先ずは試しのウォーキングに出かけている。最初の一歩は、大地を確かめるように、そろりと踏み出す。病癒えての実感を噛みしめるように、次第にしっかりと踏みしめてゆく。そのささやかな喜びを、味わい尽くすかのように。気遣いながら見守る夫の温かい眼差しを、全身に感じているに違いない。その晴れやかな一日。陽射しを受けた大きな夏帽子の傾きが、こらえきれない嬉しさを隠している。
【並選】
(一位)
老医師の手書きのカルテ草茂る 吉松舞九
おそらく、長い付き合いのかかりつけ医の診察を受けているのだろう。その老医師は、今も手書きのカルテを使っている。所々にドイツ語の専門用語を挟み、簡単な図解も適宜入れながら、記されている。すでにカルテはかなり厚めになり、綴じ代の部分はささくれ立っている。その辺りの様子を「草茂る」と喩えた。診療と縁の切れない我が身の患いを託っている一句。
(二位)
蛍火やたゆとう余命日々過ごす 千原延居
高齢の作者の境涯感。このところ作者はこのテーマで句作する事が多い。今なお俳句に撃ち込まれるエネルギーには恐れ入るばかり。夏の夜の蛍火のゆらめきに、おのれの余命の揺蕩いを感じながら、年齢相応に泰然とした生き方を貫いている姿勢を思う。
(三位)
草茂るただ一本のちゃりんこ道 押山うた子
草生い茂る山里の道を自転車に乗って走っている。おそらく一つの日課としてやっているのだろう。人通りの少ない道だけに、自分なりに心の落ち着く無理のない習慣なのだろう。こういう生き方、生きざまが、作者の命を支える資産となっているような気がする。やはり学ぶべき生き方とはいえよう。
(四位)
燃えつくし長嶋星に走り梅雨 赤崎秀夫
ミスタープロ野球とまで云われた長嶋元巨人軍監督が亡くなり、プロ野球史の一つの時代が終ったと言われている。筆者自身はアンチ巨人だったから、生前の長嶋氏をさほどの人は思っていなかったが、時代を劃した長嶋追悼には同調できる。長嶋氏は今や星となり、走り梅雨が涙雨のように日本全国を濡らしたという時評性は、タイムリーなセンスといえる。今なればこその俳句だが。
(五位)
夏草に覆いつくさる放棄畑 中村憲一
生産年齢人口の都市への集中と、地方の高齢化と人手不足により、農村の畑は放棄畑となり、そこに夏草が生げり、覆いつくしているという。これからの食料の確保はどうなるのか、打つ手はあるのかが問われている。これも今や周知の現実ながら、どのような手が打てるのか、それは有効かとなると答えはまだ出ていない。その現状を詠んでいる。もう少し危機感が欲しい気がするが。
(六位)
夏草の茂る実家や人気無し 森尾ひでかず
五位の夏草の句と同じモチーフ。こういう現実はすでに詠まれているものなので、新鮮味にとぼしいが、いわずにいられない気持ちはよくわかる。やはり危機意識にも個性的な発見が、いまや求められていると思う。
(七位)
かな文字をなぞらえ点す初蛍 舘 爽風
蛍火の舞い出る光の渦は、かな文字のようという見立て自体すでに書き尽くされている感もあるが、年ごとにその思いを新たにかきたてられる感じはある。ことに初蛍となればなおさらに。初蛍の着眼でマンネリ感を救っているともいえよう。「なぞらえ点す」が効いている。
(八位)
古らっきょう実をシャキシャキと口すぼめ 藤木ひろみ
古らっきょうを食べるときのシャキシャキ感は、噛み応えとともに、噛み音の響きが鮮やかで、旨味を一層かき立てる。その酸っぱさに思わず口をすぼめたのは実感そのもの。
(九位)
能登七尾まぼろしとみる蛍かな 内田博司
地震災害からの復興未だしといわれる能登七尾にも、今年も夏の訪れを告げる蛍が舞い出てきた。それは、被災で亡くなった人々のまぼろしのようにもみえるという。忘れられない思い出とともに。広く共有されていることながら、忘れることはあるまい。
(十位)
蛍つつむおもちゃの指輪つけたまま 梶原由紀
蛍狩に出かけて、おもちゃの指輪をつけたまま、蛍を手に包んでいる。どこか包んだ蛍に、遊ぼうよと誘いかけているような感じがあって、思いなしか蛍も安心したように、その指輪に戯れているとみたのではないか。ちょっとひねった発想なので、問題提起的にとりあげた。
*全体に身近な生活感を書いているので、表現技法上はほとんど破綻のない句が多かった。問題は、これからのテーマ性というか句の内容が問われよう。
◆六月句会 高点句
(同点の場合は番号順)
最高得点句・十点
夏草や草莽という志 安西 篤
その他の高点句・九点
夏帽子大地確かむ妻の試歩 清水星人
七点句
蛍火やたゆとう余命日々過ごす 千原延居
老医師の手書きのカルテ草茂る 吉松舞九
かな文字をなぞらえ点す初蛍 舘 爽風
完治せる足もて越ゆる茅の輪かな 吉松舞九
能登七尾まぼろしとみる蛍かな 内田博司
六点句
蛍つつむおもちゃの指輪つけたまま 梶原由紀
◆2025年7月以降について
★7月は以下の通り対面句会の予定です。
日時:7月27日(日)午後1時半~4時半
場所:本多公民館 会議室1
兼題:「七夕」または「半夏生」(いずれも傍題含む)
★6月は通信句会の予定です。
以上