2025年7月国分寺句会

俳句同好会(国分寺句会)7月例会(第124回)

俳句同好会(国分寺句会)の2025年7月例会が7月27日(日)13時30分から対面句会方式で開催されました。今回は安西先生をはじめ9名の方が出席、14名の方から投句ならびに選句をいただきました。

出席者氏名;安齋篤史(俳号 安西 篤・講師)、赤池秀夫、内田博司、梶原由紀、清水元(星人)、眞宅康博(泉舟)、野部明敬、森尾秀基(ひでかず)、吉松峰夫(舞九)

以上9名

欠席投句: 押山うた子、佐竹茂市郎、千原一延(延居)、中村憲一、藤木ひろみ

以上5名 

投句数:3句  兼題:兼題「七夕」「半夏生」(いずれも傍題含む)

講師選評 安西 篤(俳句結社「海原 KAIGEN」主宰)

20257月 国分寺句会講師選評 

【特選】

無縁墓を這い出る蔓や半夏雨    梶原由紀

 半夏生は、陽暦七月二日頃でまだ梅雨が明けていない。この日の雨を半夏雨といい、大雨が続くこともある。そんな時、訪う人もない無縁墓から蔓が這い出てきた。なんとなく無宿人に入り込まれたような落ち着かない気分になる。半夏生草という毒草が生えることもあるというから、農家では物忌みをしたり田の神を祭ったりする。今のような不穏な社会の、地域現象の一端をも覗かせているようで、無事を祈りたい気持ちがありあり。

【並選】

(一位)

墓仕舞は故郷仕舞五月闇      吉松舞九

 故郷の先祖伝来の墓を守るにも、縁者も途絶え、遠く離れて高齢化した身にはとても荷の勝ちすぎる状態となった。やむなく墓仕舞をして東京の墓地に移したのだろう。余儀ない仕儀とはいいながら、これで故郷との縁が切れたとの言いようのない淋しさを感じているのではないか。実は筆者も十年ほど前に、同じ経験をした。選択の余地のない決断とは言え、今も時々故郷のことを思い出す。

(二位)

星祭雨濡れそぼつ廃校跡      千原延居

 廃校となった学校で、せめて星祭の夜だけでも皆で楽しもうと、七夕竹に願い事などの短冊を用意していたところ、どうやら雨に降られて濡れそぼつ中の星祭となった。どこまで祟られる廃校跡なのか。憤りというより半ば絶望感にさえ捉われる淋しい廃校跡。

(三位)

アナログのままの余生や半夏生   清水星人

 ちょっとひと味違う境涯感。これまで自分は、もっぱらアナログ型、簡単に言えば感覚的おおざっぱさで、緻密な計算のもとに人生を送ってきたわけではない。おそらく今後の余生もそうだろう。はや半夏生の時も過ぎた。いまさらどうなるものでもあるまいという。一つの自己韜晦だが、そこに居直っているとも見える生きざま。

(四位)

戦火なき国に住いて星祭る     押山うた子

 ウクライナやガザ地区等の紛争など、世界にきな臭い戦火が起きている今、せめて戦火のない国で星祭の出来る幸せを思わずにはいられないという。平凡なことだがこんな幸せを尊いことと思えるのは、戦争の悲劇を身に滲むように感じている人ならではのものだろう。こういう句には順位をつけたくはないのだが。

(五位)

打ち水や京の老舗の石畳      佐竹茂市郎

 京都の夏の暑さは、喩えようもない。石畳の多い品位のある街並みが整然と並んで暑熱に耐えている。そこに打ち水が打たれているのだが、それで暑さが静まるわけではない。ただその配慮が街並みに涼やかな品位をもたらす。そんな京都の街の佇まいが好ましいに違いない。

(六位)

コンビニで大声を聞く暑さかな   中村憲一

 掲句の大声は、コンビニへのクレーマーではなく、猛暑の外から、冷房の効いたオアシスのようなコンビニに入ったときの涼しさへの感動の声だろう。思わず「助かった」というような大声が出たのは、外気の暑さのせいに違いない。それも猛暑の実感をよく伝えている。

(七位)

夏の日の迷う道端道祖神      藤木ひろみ

 夏の日に山路を辿っていて、ふと道に迷ったとき、道祖神の立っている場所が、ちょうど道案内地図の目印にもなっていたのだろう。道祖神の仲良き像が、心和む道案内役にもなっていて、思わず笑顔を誘い出す。

(八位)

歳重ねすこし仕合せ昼寝妻     野部明敬

 老夫婦が、昼寝時を共に過ごしている。夫の方が早く目覚めて、まだ寝入っている妻をそれとなく見ている。その如何にも安堵したような寝姿に、どうやら妻も、歳を重ねてすこしは幸せを感じているようにも見えるという。おそらくそれは夫の実感でもあろう。老いてこその共生感がそこに。

(九位)

白昼の庭の家守と半夏生      内田博司

 夜、いつも天井裏などを徘徊している家守が、何をどう間違えたか白昼の庭に飛び出していた。昼と夜を間違えたのかもしれず、事もあろうに庭と天井裏を間違えたとなれば、かなりのボケ現象と云わざるを得ないが、我が身を顧みれば笑い事ではない。時はまさに半夏生の曖昧な季節。中七の「と」は「や」と切った方がいい。

(十位)

鎌倉や異国の人の夏帽子      赤崎秀夫

 最近外国人の観光客が、日本に押し寄せている。円安で、近間の観光地が多く、サービスが行き届いているからさもありなんと思う。まして鎌倉のような代表的な観光地は人気なのも道理。今年の夏は暑いから、皆夏帽子をかぶっている。日本人はあまり夏帽子をかぶらないから、余計外人が目立つのかもしれない。鎌倉の夏帽子が、ちょっと小粋な感じなのも、街の風情によるものだろう。

2025年7月 国分寺句会高得点句 (同点の場合は番号順)

最高得点句・十一点

羅漢らの笑みも引きつる灼の日々  押山うた子

その他の高点句・十点

墓仕舞は故郷仕舞い五月闇     吉松舞九

九点句

黙祷に始まる同窓会の夏      安西 篤

鎌倉や異国の人の夏帽子      赤池秀夫

八点句

老いの身に夏ずかずかと来たりけり 清水星人

七点句

無縁墓を這い出る蔓や半夏雨    梶原由紀

アナログのままの余生や半夏生   清水星人

六点句

戦火なき国に住いて星祭る     押山うた子

以上