2025年12月国分寺句会

俳句同好会(国分寺句会)12月例会(第129回)

俳句同好会(国分寺句会)の2025年12月例会が通信句会方式で開催されました。
参加者は以下の13名でした。
出席者氏名;安齋篤史(俳号 安西 篤・講師)、内田博司、押山うた子、梶原由紀、佐竹茂市郎、清水 元(星人)、眞宅康博(泉舟)、千原一延(延居)、中村憲一、野部明敬、藤木ひろみ、森尾秀基(ひでかず)、吉松峰夫(舞九)。
欠席:赤池秀夫、舘爽風

投句数:3句  兼題:「年用意」「火事」(いずれも傍題含む)
              
講師選評 安西 篤(俳句結社「海原 KAIGEN」主宰)

◆2025年12月国分寺句会選評

【特選】

この土地に生きる覚悟や大火跡  清水 星人

 大火によって我が家を失い、その焼け跡に来て茫然と立ちすくんでいる。しばしの時を過ごした後、我が心にふつふつと湧き上がって来たのは、この土地に、あくまでも生き抜いて行こうという覚悟だった。焼失した我が家はここで再生しよう、この土地を産土の地と思い定めて、生涯を送ろうとまでしているのではないか。作者は能登や大分の災禍に見舞われた人々への思いを重ねているのかもしれない。地方の人々ほど土地への執着は深い。いや郷土愛の厚みというべきかもしれない。

【並選】

(一位)

半島のくびれ甚振る大火かな   梶原 由紀

 「半島のくびれ」とは、大分佐賀関地区の地形を言うのだろう。人家の密集地帯で消防車も入りにくい地域。山火事は強風にも煽られて鎮火の難しい状況にあり、まさに大火の甚振りにまかせるがままという。「甚振る」が、猛火のなすがままなる現場感を云いとめている。

(二位)

火事に泣く人に長舌リポーター  吉松 舞九

 火事に家を焼かれ、なお延焼中の大火に言葉を失って、ひたすら泣いている人に、テレビのリポーターがしつこく取材し、しかも無遠慮に長口舌をふるっている。その厚かましくも無神経な現場を、怒りを込めて指摘する一句。

(三位)

年用意添い寝の妻と話す夜    千原 延居

 年用意の仕事を妻とともにやっと仕上げ、どうやら新しい年を迎える用意も出来たようだと、添い寝の妻と話し合っている。例年のことながら、これで一安心という気持ちが通い合って、心温まる歳末を迎えている。平凡な日常感が素直に出ている句。

(四位)

新暦内に重ねて年用意      押山うた子

 来年の新暦を求めてきたが、まだ年の内なので年用意のいろいろな品物の中に重ねおきしておいた。それだけのことながら、重ねられた新暦がむずむずと日めくりの日を待ち侘びいているようにも見える。それは年を迎える一家の心のうちにも通う。

(五位)

青蜜柑伊予路に入る遍路かな   森尾ひでかず

 青蜜柑の生る頃、伊予路に入るお遍路さんを見かけた。八十八か所巡りもこれからが正念場とみて、励ましの声とおもてなしに、心を込めているのだろう。青蜜柑の黄色に熟れる頃、またお待ちしていますというかのように。

(六位)

クリップにメモ書き溜めて年用意 藤木ひろみ

 年用意ともなれば、あれもこれもと用意することも多く、ついつい何か忘れがちになりかねない。そこで思いつくたびにメモ書きして、それをクリップに溜めておく。さすがに用意周到と恐れ入るが、それでも度忘れの一つや二つはありそう。

(七位)

一人居の姉の救急年用意     野部 明敬

 病弱ながら一人住まいの姉がいて、年末の寒さの中、いつ救急搬送しなければならないとも限らない状況。それが年用意の中に入れておかなればならない一つの要素という。いつ起こるかわからい年用意は、一体誰が引き受けるつもりか。作者自身?

(八位)

耳鳴りの耳が捉うる夜番の柝   中村 憲一

 耳鳴りの耳に、夜番の柝の音が偶然入ってきた。その音になにか初めて聞くような音の響きを感じたのではないか。耳鳴りの異常な聴力が捉えた夜番の柝の音は、本人だけが捉えた一回性の物音だろう。

(九位)

物売りの音遠ざかる年用意    眞宅 泉舟

 年用意を黙々としている厨内に、物売りの声が近づき、やがて次第に遠ざかっていく。その間にも年用意はしずかに捗っている。

(十位)

年の暮厨の壁の千社札      内田 博司

 二月初午の日に稲荷に巡拝することを千社詣でといい、そこで貰ったお札を千社札という。今年の二月の初午に頂いた千社札が厨の壁に張られていたのを年の暮れに見つけて、初午の千社詣をそそられているのかもしれない。

◆十二月句会  高点句 (同点の場合は番号順)

最高得点句・九点

半島のくびれ甚振る大火かな   梶原 由紀

この土地に生きる覚悟や大火跡  清水 星人

その他の高点句・八点

年用意さてその先の死支度       安西 篤

六点句

耳鳴りの耳が捉うる夜番の柝   中村 憲一

火事跡に真っ暗闇の夕迫る       藤木ひろみ

藺草の香籠る座敷や冬に入る     吉松 舞九

終活に似て非なること年用意     眞宅 泉舟

五点句

クリップにメモ書き溜めて年用意    藤木ひろみ

黄落の音の確かさ妻の試歩       清水 星人

またひとつ増える薬も年用意     吉松 舞九

以上