俳句同好会(国分寺句会)11月例会(第117回)
俳句同好会(国分寺句会)の2024年11月例会が対面句会方式で開催されました。
当日の参加者は講師の安西 篤先生始め9名、欠席投句の5名を含め合計14名の句会となりました。
出席者氏名;安齋篤史(俳号 安西 篤・講師)、赤池秀夫、内田博司、押山うた子、
梶原由紀、、清水 元(星人)、眞宅康博(泉舟)、、森尾秀喜(ひでかず)、吉松峰夫(舞九) 以上9名
欠席投句: 佐竹茂市郎、千原一延(延居)、中村憲一、野部明敬、藤木ひろみ
以上5名
欠席;舘 外博(爽風)
投句数:3句 兼題:「石蕗(つわ)の花」または「木の葉髪(傍題を含む)
講師選評 安西 篤(俳句結社「海原 KAIGEN」主宰)
《 》内は講師の添削
【特選】
命継ぐ丸薬数多冬ざるる 押山うた子
今や高齢化時代。おそらく当句会の誰しも、何らかの薬や健康食品に頼らざるを得ない状況ではないか。それも複数服用していよう。その現実を憂きものとは承知しながら、やはり対応せざるを得ない。「冬ざるる」の季語に、人生の冬の訪れをも意識しながら、差し迫った備えとして数多の丸薬に依存しつつある。瀬戸内寂聴は、毎日が死に支度で、その死に支度そのものが生き支度でもあると言う。丸薬の服用は、そのための一つの手立てでもある。「命継ぐ」思いは、「冬ざるる」なればこそ身に染みるのではないか。
【並選】
(一位)
つわぶきの茎の煮物は母の味 吉松 舞九
つわぶきの茎の煮物は、佃煮としても用いられるが、結構アクが強いので、しっかりアク抜きをするのが肝心ともいわれ、やはり家伝来の作り方を心得た母の味覚に如くはない。それはまさに母の味に違いなく、素朴ながら鄙びた表現が、ピタリと決まる。おそらく亡き母の味は、懐旧の思いの中で輝きを増すのだろう。
(二位)
入院の妻の背白し秋の風 清水 星人
この句も身近に感じられる人は多いだろう。高齢ともなれば、連れ合いのどちらかが病み、入院することは誰しも経験する。この場合は、妻が入院することになり、その時の妻の背が、白く目に染みたという。それは白風ともいわれる秋風の中に浮き彫りになった。見送る夫の思いにも重なっている。
(三位)
退職の太線引けり石蕗の花 森尾ひでかず
遂に定年退職の日を迎えた。書斎か居間の壁に貼ってある書き込み式のカレンダーに、退職の日を濃い筆ペンでマークしてある。それは石蕗の花咲く寒い冬の日だった。花のない時期だけに目にも鮮やか。長いサラリーマン生活の最後を飾るにふさわしい色合いで、一抹の淋しさを添えていた。カレンダーの太線が目に染みる。
(四位)
下町の引き戸喧し冬北斗 梶原 由紀
下町の家は、江戸から戦前にかけて、引き戸作りの家が多かった。開ける時に、「ガラガラッ」と音を立てるので、人の出入りの気配がすぐに伝わる。冬の夜空に北斗七星が逆立つ下で、引き戸が喧しい音を立てる時、下町の情緒が夜空に匂い立つ。上中の簡潔な描写力が光る。作者はいつも手堅い市井感を捉えた句を作るので、外れがない。
(五位)
日向ぼこふたつに分けし豆大福 千原 延居
残り少ない余生を自覚したとき、やはり最後の頼みの綱となるのは連れ合いに違いない。年末も近い或る日。二人して日向ぼこをしつつ、珍しく誰かのお裾分けとして貰った豆大福を、二つに分けて頬ばった。一人で食べるには手に余る大きさなので、二つに分けるのは当然だったが、外目には老後を仲良く分かち合っている二人と映ったに違いない。日向の温もりの感じられる句。
(六位)
山門の昏れゆくときを石蕗の花 藤木ひろみ
おそらく年末近い或る日、先祖の墓参に出かけたのだろう。丁度山門の暮れつ方で、傍に石蕗の花が侘し気に咲いていた。いかにもあつらえたような石蕗の花の立ち姿が、まさにタイミングよく決まっていて、景の雰囲気に墓参の気分が溶け込んでいるようだ。
(七位)
拭う度汚れる顔の蓮根堀り 赤池 秀夫
蓮根堀りは、正月需要を控えた十二月頃が最盛期で、蓮田での泥まみれの作業となる。
「蓮堀が手もておのれの脚を抜く(西東三鬼)」ような悪戦苦闘ぶりの中、流れる汗を拭う度、顔に泥が塗りこめられていく。よくある発想なので類句はあるが、作者の実体感として頂ける。
(八位)
枯れ庭の石蕗の花咲く暮らしかな 内田 博司
我が家の枯れ庭に石蕗の花が咲いた。いかにも淋し気な狭庭の中に咲いている。冬場ゆえの淋しい彩りながら、自分の暮らし向き同様の感じで、いかにも埴生の宿にふさわしい(句の解釈としてご理解願いたい)。石蕗の花にびったりの暮らしぶりを一入感じ入っている句。
(九位)
風に鳴る十一月のプラタナス 野部 明敬
プラタナスの木は、和名を鈴懸といい、葉が大きいので街路や公園の緑陰樹として用いられ、十一月頃の秋風には葉騒を呼んで風に鳴る。それは秋の深まりを感じさせるもので、詩歌にもよく詠まれる。「プラタナス」の語感も洒落ているから、口当たりの良い句になるのだが、それだけに詠みつくされている感もあって、類句が多い。
(十位)
海風と登る山路の石蕗の花 眞宅 泉舟
初冬の吹き上げる海風とともに、山路を登ると石蕗の花の群生に出会うことがある。まさにこの句に描かれた通りの群落だが、作者の個性的な視点や生活感に乏しいのが惜しまれる。
【選者自句自解】
命終とや一筋残す木の葉髪 安西 篤
加齢とともに多くの年近の友を失う度に、いよいよ命終感に迫られる思いがある。その中で残り少ない木の葉髪の一筋を手にして、旦夕に迫るものを噛みしめることがある。他人はまだまだと慰めてはくれても、体力能力の衰えは争えず、多少の余裕のある髪にも、木の葉髪のわびしさを覚えている。
以上
◆講師(安西 篤)詠 3句
石蕗の花呆けし母に参らする
命終とや一筋残す木の葉髪
指鳴らし街角ピアノ秋うらら
◆10月句会 高点句
(同点の場合は番号順)
最高得点句・八点
拭う度汚れる顔の蓮根掘り 秀夫
その他の高点句・七点~六点
日向ぼこふたつに分けし豆大福 延居
半生を妻に頼りて木の葉髪 星人
海風と登る山路の石蕗の花 泉舟
その他の高点句・六点~四点
襟肩にしがらみ抜けし木の葉髪 泉舟
黄を極め緑を極め石蕗の花 泉舟
マドンナにまた出会いたる冬相撲 舞九
命継ぐ丸薬数多冬ざるる うた子
石蕗の花呆けし母に参らする 篤
長考の碁盤にひらり木の葉髪 茂市郎
尿まで病んで弱気の木の葉髪 延居
以上
◆12月以降の予定
★12月は以下の通り通信(テレワーク)句会となります。
投句締切 12月10日(火) 3句
兼題: 「冬木」または「おでん」
★2025年1月は以下の通り対面句会を開催いたします。
日時:1月19日(日) 13:00~16:30
場所:本多公民館 会議室2
兼題 未定
以上