2026年2月国分寺句会

俳句同好会(国分寺句会)2月例会(第131回)

俳句同好会(国分寺句会)の2026年2月例会が通信句会方式で開催されました。

参加者は以下の13名でした。
出席者氏名;安齋篤史(俳号 安西 篤・講師)、赤池秀人、内田博司、押山うた子、梶原由紀、佐竹茂市郎、清水 元(星人)、眞宅康博(泉舟)、中村憲一、野部明敬、藤木ひろみ、森尾秀基(ひでかず)、吉松峰夫(舞九)。
欠席:舘爽風、千原一延(延居)

投句数:3句  兼題:「早春」「梅一切」(いずれも傍題含む)
              
講師選評 安西 篤(俳句結社「海原 KAIGEN」主宰)

◆2026年2月国分寺句会選評

【特選】

四温晴今を大事に干すセーター  押山うた子

 四温晴とは、三寒四温といって、晩冬に三日ほど寒い日が続いた後、四日ほど温かい日の続く周期的気象現象を繰り返しながら、春の足音が近づいてくることをいう。一家の主婦は、そんな季節の変化を大切にしながら、寒い間は干せなかったセーターを、今のうちに干しておこうとする。「今を大事に」の心遣いは、主婦なればこそ目敏く気づくものだろう。とても関白亭主族の及ぶところではない。

【並選】

(一位)

病妻のぬっと起ち見る今朝の雪  清水 星人

 長患いをしている妻が、久しぶりに窓越しに見る今朝の雪に、ぬっと起ちち上がって見入っている。「ぬっと起ち見る」には、おや珍しく起き上がって見ているなという妻の様子への軽い驚きと、今朝の雪の訪れによる季節の移ろいを思い合わせて、これからは、容体に何か良い方向に向かうかのような期待を滲ませているのではないか。

(二位)

春雪を諸手に握る投票日     梶原 由紀

 女性首相の登場による新内閣の信任を問う選挙が、二月八日に行われ、作者は春雪を諸手に握りしめ、その期待を込めて投票に向かったのだろう。新内閣与党は、歴史的大勝を収めた。それが作者の意図通りのものだったかどうかは定かではないが、作者なりの期待を込めていたことは間違いあるまい。そんな期待が、春の雪に重なっていたとは言えそうだ。

(三位)

紅梅を一夜に晒し雪積もる    吉松 舞九

 紅梅の咲き満ちた庭に、一夜にして雪が降り積もり、紅梅の花時を雪に晒したまま、どこか伊藤若冲の紅と白の色調を基本にした画風を思わせるような映像が浮かび上がるような気がする。もつとも日本画と俳句では、映像のスケールが違うので単純に比較はできないが、モチーフに共通感覚がありそうだ。舞九句には、こういう花鳥画風の緻密さがあるように思う。

(四位)

久々に手を繋ごうか梅日和    赤池 秀夫

 愛妻句だが、我々世代なら自然な心情としても受け入れ得るものではないか。まして「梅日和」という季語に相応しい嫌味のないパフォーマンスでもある。秀夫句には、「春葱を抱くや土の香ついてくる」という嘱目吟もあるように、どこか肉体感に即した句が、持ち味になるような気がしてならない。

(五位)

早咲きの梅の散り敷く庭も好き  押山うた子

 早咲きの梅の花が、早くも庭一面に花びらを散り敷く頃となった。梅の蕾から花を綻ばせる姿もいいが、庭全面を覆うほどの白梅の気品、紅梅の艶なる風情も、どちらがどうと決めつけがたいほど、いやむしろそのほどよい取り合わせが、たまらなく好きなのです。それはもう理屈じゃありませんという。

(六位)

白梅や空より遠き空を見て    野部 明敬

 白梅が空に向かって咲き競う様は、見上げている空よりももっと遠くの空を望み見ているようで、どこか大志を抱く少年像を思わせる。それが紅梅となるともっとおませな少女像で、俯きがちに足元を見つめるのだろうか。掲句はそこまでは言わないものの、暗黙の視線を漂わせているようだ。

(七位)

白梅や園への道に父娘      森尾ひでかず

 白梅咲く園への道を、父と娘が歩いている。娘がさかんに語りかけるのを、父親は短く肯きながら、時々愛おしそうに娘の顔を見つめたりする。そんな父と娘の小さな道行きが、清浄な情感を誘うようで、白梅の園への道を弾ませているのではないか。下五の韻律がややタルイので、「白梅の園への道の親子かな」ではどうだろう。或いは「(おや)()かな」とルビを振る手もある。その方がいい。

(八位)

梅匂ふ家の軒先灯の点る     中村 憲一

 夜気に包まれた家の軒先に灯が点り、家に近づくと梅の香が匂い立つ。庭は、塀に囲まれていて梅の花は見えないが、梅の香りがその存在を偽れない。軒先の灯が、その所在を証しているかのよう。

(九位)

早春の光の中をバス待てり    佐竹茂市郎

 早春の光の中に、バスが待ち合わせてくれている。実際は、発車時間までの調整しているのだろうが、そこは早春ならではの特別サービスのように見立てているのだ。その見立てが、早春の光に照り映えているようで嬉しい。

(十位)

梅一枝手折りて部屋に春を呼ぶ  眞宅 泉舟

 梅林からも梅の一枝を手折ってきて、部屋に飾り、春を呼ぶ気分になつたという。たとえ野梅といえども、今は勝手に手折ることなどなかなかできないはずだが、一つの文人気風で、その願望を句にしてみたのではないか。春に先駆けて咲く花の美しさを、今さらのごとく讃えた一句として評価しておきたい。

【講師自薦句鑑賞】

梅咲いて谷汲みの蜜たまるなり  安西 篤

 谷間の梅林に花が開いて、馥郁とした甘やかな香りが辺りに満ちた。おそらく谷間の花に先がけて、高い気品と清らかな香を、谷間の蜜とともに梅の花が用意しているのだろう。谷汲みの蜜としたことで、豊かな谷間の土の香が匂い立ち始めたばかりのようだ。谷汲みの蜜がたまるのもこれからか。

◆2026年2月 国分寺句会高得点句 (同点の場合は番号順)

最高得点句・十点

久々に手を繋ごうか梅日和    赤池 秀夫

その他の高点句・九点

病妻のぬっと起ち見る今朝の雪  清水 星人

八点句

梅一枝手折りて部屋に春を呼ぶ  眞宅 泉舟

六点句

紅梅を一夜に晒し雪積もる    吉松 舞九

豆まきの鬼は仏陀に一礼し    赤池 秀夫

春の地震(ない)(しゃ)楽面(らくづら)にてやり過ごし  安西 篤

五点句

四温晴今を大事に干すセーター  押山うた子

四点句

早春の光の中をバス待てり    佐竹茂市郎

早咲きの梅の散り敷く庭も好き  押山うた子

梅匂ふ家の軒先灯の点る     中村 憲一春

雪を諸手に握る投票日      梶山 由紀

以上