2025年11月国分寺句会

俳句同好会(国分寺句会)11月例会(第128回)

俳句同好会(国分寺句会)の2025年11月例会が11月22日(土)13時30分から対面句会方式で開催されました。今回は2名の方が欠席となりましたが、安西先生をはじめ7名の方が出席、13名の方から投句ならびに選句をいただきました。

出席者氏名:安齋篤史(俳号 安西 篤・講師)、内田博司、梶原由紀、清水元(星人)、野部明敬、森尾秀基(ひでかず)、吉松峰夫(舞九)

以上7名

欠席投句:押山うた子、佐竹茂市郎、眞宅康博(泉舟)、千原一延(延居)、中村憲一、藤木ひろみ

以上6名 

欠席:赤池秀夫、舘爽風

投句数:3句  兼題:兼題「帰り花」「熊」(いずれも傍題含む)

講師選評 安西 篤(俳句結社「海原 KAIGEN」主宰)

202511月 国分寺句会講師選評 

【特選】

一年を立ち話して返り花     梶原由紀

 年の瀬も近い或る日、路上で久々に友人と会い、気ぜわし気にお互いのこの一年のあれこれを、立ち話で一気に話し込んでいる。折しも路上の木々は、時ならぬ返り花が咲き出で、束の間の再会を寿ぐかのよう。一年の歳月は長いようで短く、お互いの残された光陰も、ほどなく消え去るものかと思えば、まさに一期一会の逢瀬だったのかもしれず、そのひと時を惜しみつつ、さり気なく別れる。それが返り花咲く日のたまさかの逢瀬に相応しいのかも。

【並選】

(一位)

リハビリの老いのだんまり帰り花 吉松舞九

 リハビリに励む老人は、誰も無駄口を叩かず、ひたすらだんまりを決め込んで、リハビリに勤しむ。折しも帰り花咲く季節とあって、皆一様に励む姿は、帰り花のひたすらな回帰の息遣いを、体現しているかのようだ。

(二位)

わが道をまっすぐ生きて帰り花  清水星人

 「わが道」とは、多年生きてきたおのれ自身の過ぎ来し方。その道は、自分のひたすら求めてきた道を、迷わず真っ直ぐに生きてきた道。その道に咲く帰り花も、まさにそのひたすらなる道を真っ直ぐ生き貫いて来た。これからも続く道として生き貫こうとしているかに見える。

「三位」

返り花友はあちらで振り向きぬ  千原延居

 返り花の咲く日。今は遠く去った友を回想しているのではないか。「あちら」とは、場合によっては他界かも知れず、友は、作者の思い出の中で振り向いたのかも。おそらくその友は、実態としての友より一層鮮やかに振り向いたのかもしれない。

(四位)

花数を重ねて淡し狂い花     押山うた子

 帰り花は、時ならぬ季節に咲くところから、「狂い花」ともいわれる。そんな花も、花数を重ねてくると、全体に淡い「狂い花」として、一つの存在感を見せ始める。そうなると、世に「狂い花」と言われても、そのあり様を疑う余地はない。

(五位)

古木にも三つ四つ二つ返り花   眞宅泉舟

 おそらく櫻か梅の古木の連なる並木道なのだろう。古木の返り花は、あちらに三つ、こちらに四つ、そして思いがけなく次は二つと、不規則ながら返り花が連なってゆく。その連なりに、花のいのちの変化を感じずにはいられない。

(六位)

妻亡くし白磁に飾る帰り花    内田博司

 妻を亡くした一人暮らしの日々。せめて仏壇の白磁の壺に、帰り花の一枝を飾り、帰らぬ人を偲んでいる。上五が散文調なので、「亡き妻の白磁に飾る帰り花」とまとめたい。妻の遺品としての白磁の壺に帰り花を挿し入れて、せめてそのひと時なりと帰り花として帰ってきてほしいという気持ちを表現したい。

(七位)

帰り花土手の遠近色うすし    中村憲一

 「遠近」は「おちこち」と大和言葉風に詠みたい。帰り花咲く土手の遠近は、花の色合いに合わせて色が薄く引き延ばされたように棚引いている。帰り花咲くひと時が、淡くはかない色合いを染めだしているのだ。

(八位)

医者帰り木犀の香に気づきけり  森尾ひでかず

 医者帰りの家路で、木犀の香りに気づいたという。おそらく通院の帰りでなく、退院後のことではないだろうか。しばらくぶりの家路で、懐かしい木犀の香に気づいたのではないか。となれば、「退院後木犀の香に気づきけり」となる。事実とは相違しても、句のリアリティは増すのではないか。

(九位)
七色の傘開きおり初時雨     佐竹茂市郎

 初時雨に見舞われた街は、赤青黄をはじめとする七色の花が一斉に開き、華やかな傘景色が展開する。そこには、人間の生の営みが花開くように感じられている。ある意味では、写生俳句といえるものだ。かつて戦後俳句時代に、林田紀音夫の句に、「黄の青の赤の雨傘誰から死ぬ」という句があった。この句は俳句評論家川名大によって戦後俳句の金字塔をなす名句と激賞された。佐竹句は、その裏返しとなる本歌取りとも見られなくはない。

(十位)

冬ぬくし馴染みの店の不愛想   梶原由紀

 暖冬のせいか、馴染みの店も客入りが少ない。やはり冬は寒く、夏は暑い方が季節のメリハリがあって、店も繁盛する。勢い店員も不愛想になり勝ちで、客入りを一層少なくする。

2025年11月 国分寺句会高得点句 (同点の場合は番号順)

最高得点句・十一点

冬ぬくし馴染みの店の不愛想     梶原由紀

その他の高点句・八点

花数を重ねて淡し狂い花      押山うた子

妻亡くし白磁に飾る帰り花     内田博司

返り花男ざかりの頃の夢          千原延居

七点句

リハビリの老いのだんまり帰り花   吉松舞九

六点句

わが道をまっすぐ生きて帰り花   清水星人

五点句

熊よけの鈴音疾(はや)し通学路   清水星人

「駆除」という言葉悲しや母子熊 吉松舞九

返り花友はあちらで振り向きぬ   千原延居

我が影が電柱を打つ冬来る     梶原由紀

以上