2025年9月国分寺句会

俳句同好会(国分寺句会)9月例会(第126回)

俳句同好会(国分寺句会)の2025年9月例会が9月28日(日)13時30分から対面句会方式で開催されました。9月対面句会は、安西先生を始め8名の方のご参加をいただき、いつも より少ない人数ながら熱のこもった句会となりました。

投句数:3句  兼題:兼題「新涼」「夜長」(いずれも傍題含む)

講師選評 安西 篤(俳句結社「海原 KAIGEN」主宰)

2025月 国分寺句会講師選評 

【特選】

長き夜に亡き妻の影若々し         眞宅 泉舟

 亡き妻恋の一句。こういう境涯感の句は、本人でなければわからないものだろうが、表現に類想はあっても、思いの真実は疑えない。秋の夜長に亡き妻の面影を偲ぶ。その面影は、なんとも若々しい。若々しいだけに、恋しさは募るものに違いない。

 金子兜太に「どれも妻の木くろもじ山茱萸山法師」がある。妻の愛したものにかたよせて偲ぶ手もある。

【並選】

(一位)

思惟像のこぼすほほえみ涼新た    清水 星人

 掲句の半跏思惟像は、京都広隆寺のものとみた。国宝第一号で、推古天皇三十一年に新羅から渡来したとされる。軽く右足を組んで、右手の指で頬を指す座像。座像のこぼす微笑は、少し謎めいて神秘的な感じを受ける。よく言われるポーズだが、秋の涼気を受けるに相応しいものだ。思惟像なればこそ受け取る涼気ともいえよう。

(二位)

亡き父の戦記録詠む夜長かな   舘  爽風

 亡き父は或いは戦死されたのかもしれない。生きている間、戦陣の中で、戦記録を残しておられたのだろう。それを句に詠んでいると、秋の夜長もいつのまにか更けてゆく。

(三位)

涼新た墓石の文字の深さかな    藤木ひろみ

 久しぶりに墓参りをすると、墓石の文字が深く彫られているような気がする。今さらのようなことながら、そこに涼新な気配も感じられる。なぜか墓石への新たな親しみをも感じながら。

(四位)

仕舞墓のきれいさっぱり秋の蝉   吉松 舞九

 故郷の墓仕舞いをして、これできれいさっぱり故郷との縁も切れたという爽やかさの反面、一抹の淋しさをも感じつつ、秋の蝉の鳴き声に聞き入っている。そこに一入の感慨もおぼえながら。

(五位)

秋風や身体に余る羽織もの     梶原 由紀

 秋風にはためかされる羽織ものが、体にはよけいなもののように感じられることがあるのだろう。さりとて和服は、女性の正装の一つだから、避けるわけにもいかない。秋風の日は悩ましいことですが。

(六位)

烈日に訪ねし人はすでになく    内田 博司

 極暑の日に、訪ねた人はすでに亡くなっていたという。アポもとらずに訪ねる程、親しい間柄だったのだろうが、それだけにショックは大きかったに違いない。「なく」は「亡く」と漢字表記すべき。

(七位)

秋涼し大樹仰ぎつ後退り           野部 明敬

 大樹を仰ぎ、後退りしつつその全容を確かめていると、秋の涼しさが全身に吹き渡ってくるような気がしてくる。いかにも大樹の大きさを感じつつ。

(八位)

涼新た皆既月食真夜遊行      押山うた子

 皆既月食で真っ暗な夜を、遊行とばかり歩き回ってみる。かえって深夜の遊行の味わいがあり、一段と涼しさを感じている。中下の漢字表記が真夜の雰囲気を感じさせる。

(九位)

新涼や遺伝子繋ぐ孫の顔      森尾ひでかず

 新涼のなかで、わが遺伝子を繋ぐ孫たちの顔を眺めていると、つくづく頼もしくも楽しみな思いを感じさせられる。眺めているうちに一層新涼感が増してくるに違いない。

(十位)

涼新た御巣鷹峰を守る人     赤池 秀夫

 一九八五年八月十二日、日本航空一二三便が、群馬県上野原村御巣鷹山に墜落、死者五二〇名という最悪の航空事故となった。その被害者たちの霊を慰めるために、毎年その事故日に墓参に出かける人がいるという。その人々の惨事への思いは、四十年を経た今も、昨日のことのように新しいのだろう。

                                                           以上

◆九月句会  高点句 (同点の場合は番号順)

最高得点句・十一点

藍染めに染めむらのある涼しさよ  篤 

その他の高点句・十点

やつあたりして秋蝉の果てにけり  由紀

その他の高点句・七点

亡き父の戦記録詠む夜長かな    爽風

その他の高点句・六点

仕舞墓のきれいさっぱり秋の蝉   舞九

空蝉に頬ずりされて野の地蔵    星人

生き方に巧拙はなし彼岸花     秀夫

その他の高点句・五点

思惟像のこぼすほほえみ涼新た   星人

長き夜に亡き妻の影若々し     泉舟

新涼や遺伝子繋ぐ孫の顔      ひでかず

涼新た墓石の文字の深さかな    ひろみ

帯を解く背から腰へと汗ひたる   ひろみ

竹尺の手垢をなぞる夜長かな    由紀

                                                      以上