俳句同好会(国分寺句会)2月例会(第120回)
俳句同好会(国分寺句会)の2024年2月例会が通信句会方式で開催されました。今月は吉松さんから退院の連絡をいただき、先月ご欠席の舘さんと清水さんからも投句いただき45句が揃う賑やかな句会となりました。
参加者は以下の15名でした。
出席者氏名;安齋篤史(俳号 安西 篤・講師)、赤池秀夫、内田博司、押山うた子、
梶原由紀、佐竹茂市郎、清水 元(星人)、眞宅康博(泉舟)、舘 外博(爽風)、千原一延(延居)、中村憲一、野部明敬、藤本ひろみ、森尾秀基(ひでかず)、吉松峰夫(舞九)
投句数:3句 兼題:「春浅し」または「早春」(いずれも傍題を含む)
講師選評 安西 篤(俳句結社「海原 KAIGEN」主宰)
◆2025年2月国分寺句会選評
講師選評 安西 篤
【特選】
早春の弥陀仰ぎ見て鼓打つ 藤木ひろみ
早春の身の引き締まるような冷気の中で、阿弥陀如来に奉納する鼓を打っている場面。甲高い掛声に続く鼓の音は、阿弥陀仏の座像をすっきりと浮かび上がらせる。中七の「弥陀仰ぎ見て」は、鼓の音によって、はがねを打ち延べたような引き締まった空間になった。作者自身の体験のようなリアリティを感じる。
【並選】
(一位)
花束のセロファン鳴らし春は来ぬ 梶原由紀
春は、卒業や定年退職或いは転勤等で、これまで慣れ親しんだ人々との別れの時期を迎える。同時に新入学や新入社、或いは新たな転入等、新しい出会いもある。中でもこれまでの思い出と誼へのお礼の意味を込めて、花束を送るときの感慨は無量である。その花束を包むセロファンの、葉騒のような響きは、鮮やかに胸を打つのではないだろうか。
(二位)
退院の夕餉に並ぶ恵方巻 吉松舞九
最近作者は、軽い脳の手術を受けて無事退院されたと聞く。大事に至らなかったのはなによりのことだが、場所が場所だけに、予後は大切に送らねばなるまい。この句は、家族でのささやかなお祝いの膳に、験のいい恵方巻を用意したのだろう。それも手料理の心を込めたものに違いない。これからは良い幸運に恵まれますようにとの願いを込めていよう。
(三位)
聞き役の居てありがたき日向ぼこ 清水星人
この作者も最近退院されたと聞く。やはり寄る年波には抗し難いものがあって、あちこち部品の故障が起きるのはやむを得ない。願わくは大事に至らぬ内に手当をされること。そんな体験談を聴いて下さる方もいるのは、有難いことといわれるが、聞き役の方こそ良いアドバイスを頂けているのではなかろうか。共生している他者を理解することの大切さが詠まれている。
(四位)
かしわ飯博多なまりに春こぼす 赤池秀夫
「かしわ飯」とは九州福岡の郷土料理で、鶏肉に野菜を入れて煮詰めたものと聞く。ご当地出身者自慢の料理に、春の訪れを感じているということだろうか。「春こぼす」がちょっと難しいが、なんとなく春のおこぼれを頂戴しているような、得をしたような気分が感じられて、なるほどと思った次第。
(五位)
バス停の客みな笑みて梅ふふむ 眞宅泉舟
バス停の傍に立っている梅の木。当然、バス停よりも先住に違いなく、期せずしてバスのお客の送り迎えをしているような、それかバス停の客たちへの慰めや憩いにもなっているような存在になっている。その梅が、この頃芽を振らませ始めた。そろそろ花の咲くのも近いと知り、皆笑顔で期待し始める。バス停は、春の訪れとともに明るくなるに違いない。
(六位)
早春の姿見の池鯉太め 野部明敬
国分寺西恋ヶ窪地区にある姿見の池は、鎌倉時代からの由緒ある池とされており、市の自然保護地域に指定されている。岸辺の水草の栄養がいいのか、通りすがりの人々の撒き餌があるのか(市は禁じているが)わからないが、いずれも太めの体型で泳ぎ回っている。時には軽鴨家族が訪れたりすることもあって、風致の一端を担っているのも楽しい。
(七位)
初午の二列に挙る幟かな 中村憲一
初午とは、二月の最初の午の日を祭日とするもので、全国あちこちの稲荷神社の祭事である。本来は豊年祈願の祭であったが、今では、出世開運の神として広く人気を集めている。掲句は、祭の地域での行列の賑わいを、二列の幟に象徴させたもの。素朴な地域への愛着を表現したものといえよう。
(八位)
ガン病棟生還せる夜冴え返る 舘 爽風
作者自身の立場からすれば、まさに厳しい体験だったに違いない。最近の医療技術の進歩で、ガン死亡者数は二〇二〇年以降頭打ちとは言え、深刻な病状は変わらない。よくぞ御生還と申さねばなるまい。ましてご本人にとっては、奇跡の生還の思いもあって、その夜を「冴え返る」としたのだろう。納得の実感。
(九位)
日向ぼこついうとうとと小一時間 千原延居
安らかな老後を送っている人の、平和で幸せなひと時を詠んだものだろう。いささか老耄の気配も感じないわけではないが、さりとてこういう時間が過ごせる人は、「世はすべて事もなし」と達観しているのではないか。多少これまでいろいろあっても、そう思えることが素晴らしい。
(十位)
早春や水ころころとお鷹の道 森尾ひでかず
「お鷹の道」は、御存知武蔵国分寺公園の「眞姿湧水群」が集って野川に注ぐ清流沿いの小径。四季折々の散策路として人気があり、環境省指定名水選の一つに数えられる。いわば我々にとって超常識と言えなくもないが、こういう一句もわが句会ならではの句として、取り逃がしたくはない。
【自句自解】
悪尉の目玉ロンパリ春浅し 安西 篤
「悪尉」は能面の一種で、猛々しく強い老人を表現し、老神、怨霊等を演ずる。そんな悪尉の面を見て、なぜかロンパリの斜視をうかがわせるような滑稽味を感じた。また春浅き季節に、現在の世界の不条理な情勢にも通ずるような時代相をも感じて、まだまだロンパリ状の歪みの根強さを見ている思いを強くしている。いささか意味にとらわれた映像表現で、時代状況を比喩したつもりである。
◆講師(安西 篤)詠 3句
春浅き弟の訃報や深轍
悪尉の目玉ロンパリ春浅し
紅梅白梅白兵戦の気配かな
◆二月句会 高点句(同点の場合は番号順)
【最高得点句・九点】
早春や水ころころとお鷹道 ひでかず
【その他の高点句・七点~六点】
花束のセロファン鳴らし春は来ぬ 由紀
退院の夕餉に並ぶ恵方巻 舞九
早春の歩幅伸ばして歩みけり 泉舟
悪尉の目玉ロンパリ春浅し 篤
寒鴉空家の屋根であくびかな ひでかず
汐吐ける大蛤や能登余震 爽風
聞き役の居てありがたき日向ぼこ 星人
春浅き弟の訃報や深轍 篤
年女追儺の豆に辟易す うた子
ガン病棟生還せる夜冴え返る 爽風
早春の姿見の池鯉太め 明敬
◆2025年3月以降について
★3月は以下の通り対面句会の予定です。
日時:3月23日(日)13時30分~16時30分
場所:本多公民館 会議室2
兼題「卒業」または「三月」(「弥生」でも可)
★4月は通信句会の予定です。
兼題:未定
以上