2025年8月国分寺句会

俳句同好会(国分寺句会)8月例会(第125回)

俳句同好会(国分寺句会)の2025年8月例会が通信句会方式で開催されました。
参加者は以下の14名でした。
出席者氏名;安齋篤史(俳号 安西 篤・講師)、赤池秀夫、内田博司、押山うた子、
梶原由紀、佐竹茂市郎、清水 元(星人)、眞宅康博(泉舟)、千原一延(延居)、中村憲一、野部明敬、藤木ひろみ、森尾秀基(ひでかず)、吉松峰夫(舞九)。

投句数:3句  兼題:「盆一切」(傍題含む)
              
講師選評 安西 篤(俳句結社「海原 KAIGEN」主宰)

20258月国分寺句会選評

【特選】

石仏の爛れしままに原爆忌    眞宅泉舟

 原爆の被爆者には、すべてなんらかの放射線ケロイドがある。路傍にあった石仏とて例外ではなく、石仏の表面に爛れを残しているという。その被爆の惨状に目を凝らした作者の思いは、石をも通す放射線の惨禍を、許すまじきものとして、あらためて原爆の日に強く訴えているのだろう。原爆は、生きものばかりでなく、あらゆる地上の存在を破壊すると断じているに違いない。

【並選】

(一位)

ふるさとの訛に帰る盆踊     清水星人

 お盆というので故郷に返ってきた都市生活者の懐旧の思いは、盆踊りの輪の中に入っているうちに、すっかり故郷に同化されて、そのまま故郷訛に帰っていった。久しぶりの故郷訛に堪能しながら、盆踊りの輪の中に入っていく。その体感への着眼が見事だ。

(二位)

菅の笠小脇に挟み魂送る     吉松舞九

 盆踊りには、先祖への念仏踊りの意味合いもあるが、それを通しての地元の人々との交流という要素も大きい。暑い最中に行われるので、時にはかぶっていた笠を脱いで、小脇に挟んで踊る人もいる。そんな自由な交流とさまざまな楽しみ方が、、魂送りの和やかな祈りの雰囲気を作り出しているのではないか。

(三位)

送り火や残んの火影たゆたうて  千原延居

 お盆の送り火に亡き人の面影を偲びつつ、火の消えかかろうとする火影に、おのれの残る命のたゆたいを思いやっている。その思いは、亡き人への挨拶として、やがては自分もそちらへ往くが、しばらくは待っていてほしいとでもいうような思いを、残る余生の命の火影に重ねているようにも見える。

(四位)

短夜や写真整理の妻の背     森尾ひでかず

 夏の短夜に、妻がこれまで集めた写真の整理をしている。これも終活の一つの姿とみられなくはない。どこか妻の背自体が、小さくしぼんで見える。苦労をかけたという思いがその姿に重なって、短夜が残り少ない余生に沁みいるように感じられるのではないか。

(五位)

初盆のしきりに揺るる珠暖簾   梶原由紀

  身近な亡き人の初盆に、精霊棚をしつらえてお供物を並べ、迎え火、送り火を焚く。そのとき、縁側の珠暖簾がふと風に揺れ、亡き人の魂の訪れを感じた。「しきりに揺るる」に、その気配を確かなものと感じつつ、懐かしさで胸がいっぱいに満たされてゆく。

(六位)

はらからの帰省仏間の姦しく   中村憲一

 お盆に身内の者たちが、実家に帰ってきて、声高に近況や親しい人たち或は亡き人の思い出などを語り合う。その姦しさも身内同士の懐かしさと親しさで、心温まるひと時となる。その賑わいが家中を明るくしてゆく。

(七位)

父母の戒名なぞり墓洗う     赤池秀夫

 お盆の墓参りの様子だろう。墓石に刻まれた父母の戒名をなぞり、あたかも生きている人の体を洗い清めるように、墓石を洗う。久しぶりにやってきましたよと声をかけながら。

(八位)

久々にラジオ聴いてる終戦日   佐竹茂市郎

 終戦日のラジオによる玉音放送は、あの時の体験者ならまざまざと甦ることだろう。ふと終戦日に、あの時の感動を追体験しようと、久しぶりにラジオ放送を聞いてみた。雑音の混じるその音声の響きに、かえって臨場感そそられつつ、あの日の感動を反芻している。

(九位) 

香り来る暖簾くぐりし盆迎え   藤木ひろみ

 この句の「香り」とは、盆迎えで家々に立つ線香の香りか、或いは供え物の香りだろう。もつとも「暖簾」とは、盆迎えで賑わう料理や食べ物の香りとみてもよい。いずれにせよ「盆迎え」の香なのだ。迎えられる霊も、その賑わいに頬をゆるめているにに違いない。

(十位)

生身魂母は入れ歯で鰻食ぶ    森尾ひでかず

 「生身魂」は、盆の頃、生きている父母に祝い物や饗応をする行事をいうらしい。掲句は母に鰻を御馳走しているのだろう。老いてなお健啖家の母は、入れ歯を鳴らしてがつがつと鰻を食べている。その様子を、作者はなんとも複雑な気持ちで気遣っているのだろう。

(講師自句自解)

差す手より引く手かなしや風の盆  安西 篤

 風の盆は、富山県八尾市で、毎年九月一日から三日間行われる盆の行事。当日は、三味線、胡弓、尺八の音と、越中おわら節に合わせ、法被や浴衣、菅笠かぶりで踊りながら、夜を徹して町を流す。踊りの差す手、引く手に艶なる風情が感じられるが、ことに差す手よりも引く手にかなし気な気配が漂うように思われる。

◆八月句会 高点句 (同点の場合は番号順)

最高得点句・十点

差す手より引く手かなしや風の盆  安西 篤

その他の高点句・八点

石佛の爛れしままに原爆忌       眞宅泉舟

七点句

はらからの帰省仏間の姦しく      中村憲一

川の字の寝息それぞれ蚊遣り香    清水星人

六点句

送り火や残んの火影たゆたうて     千原延居

盆の夜や父母に聞かせし孫のこと   森尾ひでかず

無伴奏の踊り稽古や盆支度        安西 篤

芋蔓にたぐる記憶や敗戦忌        吉松舞九

◆2025年9月以降について

★9月は以下の通り対面句会の予定です。

日時:9月28日(日)午後1時半~4時半

場所:本多公民館 

兼題:未定

★10月は通信句会の予定です。

以上