俳句同好会(国分寺句会)10月例会(第127回)
俳句同好会(国分寺句会)の2025年10月例会が通信句会方式で開催されました。
参加者は以下の14名でした。
出席者氏名;安齋篤史(俳号 安西 篤・講師)、赤池秀夫、内田博司、押山うた子、
梶原由紀、佐竹茂市郎、清水 元(星人)、眞宅康博(泉舟)、千原一延(延居)、中村憲一、野部明敬、藤木ひろみ、森尾秀基(ひでかず)、吉松峰夫(舞九)。
投句数:3句 兼題:「行く秋」「新米」(いずれも傍題含む)
講師選評 安西 篤(俳句結社「海原 KAIGEN」主宰)
◆2025年10月国分寺句会選評
【特選】
身に入むや妻の歩行器二人道 清水星人
妻が、歩行器なしでは外出もままならぬ身になってしまったが、さりとて妻一人に歩行を任せておくわけにもいかず、老々介護の二人道をともに寄り添って行くしかない。これも若き日からの因果とも思えば、当然の報いでもあり、それもまた共に歩む幸せというものかもしれない。「二人道」は、共に歩む道だとすれば、ここは多少の字余りになっても「二人の道」として下五を重く受け止めたい。
【並選】
(一位)
幸せは新米炊ぐ厨の香 押山うた子
人間の幸せは、何一つ不自由のない暮らしの中だけにあるものではない。むしろ互いに寄り添って苦労をともにしながら、生きていくところにある。早朝に起きて、家族のために今年の新米を炊ぎ、そのおいしさを分かちあい、今年もみんな元気で生きていこうと、暗黙の励まし合いをしているのだろう。それこそが幸せ。厨の香が幸せに満ちている。
(二位)
新米の粒の先まで褒めらるる 梶原由紀
新米が出回って来る時期になって、さて今年の新米の出来栄えはどうかと、評価の声が喧しい。気候の影響は避けがたいものだが、今年の出来栄えはおおむね肯定的なもので、新米の粒の先まで褒められたという。粒の先までの出来栄え評価は、主に今年米の質の高さをいうが、同時に量の方も、前年比一割増の747万7千トンに達したという。
(三位)
朝市の端から端へ秋惜しむ 吉松舞九
「朝市の端から端へ」で、朝市の全景を描き出し、その全景に「秋惜しむ」余情を注ぎ込む。朝市だから、新鮮な野菜や魚介類も出回っていて、売り手買い手の活気のあるやり取りもあり、朝市全体が活性化している。やがて朝市も終ると、そんな賑わいも嘘のように消えて、静かな村の佇まいとなり、秋も終わる。「秋惜しむ」が、過ぎたひと時への懐かし気な回想を伴っているに違いない。
(四位)
行く秋や入院永き妻元気 千原延居
「行く秋」という季節の変わり目にもかかわらず、永い入院生活を続けている妻は、意外に元気だった。しかし、退院の目途がたっているわけではない。妻は入院生活に馴れてきているようだが、この元気ぶりは、久しぶりに会う夫とのひと時によるもので、体調の回復とまでは言えないのかもしれない。それでも、この元気ぶりを良い方にとって、回復の兆しとみるのは、夫の願によるもの。その心情が切ない。
(五位)
老い独り夕餉五勺の今年米 眞宅泉舟
老いの独り暮らし。夕餉に五勺の今年米を炊く。ささやかながら今年米を独り噛みしめて、じっくりと味わい、昨年の新米との比較もしながら、今年米の評価を誰にともなく呟いている。一人過ごす時間を、わずか五勺の今年米の丹念な味わい方で、今日一日を無事生きて過ごせたことを安堵し、感謝しているのではないか。これぞ老いの独り暮らしの淋しさの極みにある醍醐味。
(六位)
彼岸花阿波の遍路の道標 森尾ひでかず
普通「遍路」といえば、春の季語だが、掲句は彼岸花の季節だから、「秋遍路」ということになる。四国八十八か所の遍路道は、到るところに道標が立っていてお遍路さんへの道案内をするのだが、その傍らに彼岸花が咲いていて、一緒にお迎えをしている景。おもてなしは四国の地域文化であり、癒しや共助社会の精神の体現となっている。
(七位)
戦後八十年ただ端居して生を継ぐ 内田博司
戦後八十年の節目を迎えて、国際秩序は歴史的な地殻変動を来しており、その行方は第二次大戦以来の大転換を始めていると言われている。その詳細に触れることは難しいが、危機感だけは作者がひしひしと感じており、戦後八十年をただ端座して生きてきたことを、今にして率直に反省しているのだ。その後の生と行動は、課題として残しながら。
(八位)
水掬ひ月を手中の快挙かな 野部明敬
「ノーベル賞受賞」の前書きがある。このところ日本人受賞者が連続しているので、時期にかなった題材だが、「水掬ひ月を手中の快挙」という幸運感というより、むしろ堂々と「月影を掌中にせる快挙かな」と大掴みに捉えて、快挙を正面から祝いたいと思うがどうだろう。
(九位)
行く秋やガザの戦火は幕を閉じ 赤池秀夫
ガザ地区の停戦は実現したものの、先行きの不透明感が漂い、予断を許さない状況にある。ハマスとイスラエルの間では、人質の遺体の引き渡しや支援物資の搬入等さまざまな問題が生じており、本当に幕は閉じられたのかは、まだ言い切れない。題材としては今日的であっても、事態を断定するには、なお時間を要する句ではないか。
(十位)
行く秋の風にスカーフ離れけり 藤木ひろみ
行く秋の風に、首にかけていたスカーフが吹き飛んでいった。その事態を「スカーフ離れけり」と、スカーフの意志のように捉えた。そこには、作者のスカーフへのこだわりがみられない。まだ暑さの名残りもあってのことだろうが、作者の意を体したスカーフは、秋風に乗って自ら離れていったのだろう。
◆十月句会 高点句 (同点の場合は番号順)
最高得点句・十六点
老い独り夕餉五勺の今年米 眞宅泉舟
その他の高点句・八点
彼岸花阿波の遍路に道標 森尾ひでかず
七点句
新米の粒の先まで褒めらるる 梶原由紀
朝市の端から端へ秋惜しむ 吉松舞九
神無月身に潜む鬼預けたし 押山うた子
六点句
身に入むや妻の歩行器二人道 清水星人
ふるさとの道拡がりて曼殊沙華 吉松舞九
桂浜白波沿いの秋遍路 森尾ひでかず
◆2025年11月以降について
★11月は以下の通り対面句会の予定です。
日時:11月22日(土)午後1時半~4時半
場所:本多公民館
兼題:未定
★12月は通信句会の予定です。
以上

